ツベルクリン反応について

ツベルクリン反応(ツ反)

ツ反とは

ツベルクリン反応検査(以下「ツ反」と言う)は、結核菌培養ろ液から精製した抗原(PPD:Purified Protein Derivative)を皮内投与し、48時間後に接種部位の発赤等を測定して感染を診断する方法で、100年以上にわたり使われてきた。
非結核性抗酸菌感染やBCG接種に対しても反応する。日本ではBCG接種が広く行われているため、ツ反を行うと結核感染を受けていない多くの人が陽性の反応を示す。このため、これまでのツ反による接触者健診では、結核に感染していない多数のツ反陽性者に抗結核薬指示を出すことが少なくなかった。

 

このツ反の弱点(偽陽性、偽陰性)を改良した方法がIGRA検査法である。結核感染を受けた人の血液に結核菌の特異的なタンパク抗原(ESAT-6, CFP-10, 或いはTB7.7)を作用させ、血液中の抗原特異的T細胞から産生・放出される (Interferon-Gamma:IFN-γ)を測定して感染を診断する方法である。
上記の特異抗原刺激では、結核菌感染を受けた人はIFN-γが大量に放出されるが、BCG接種のみでは放出されない。BCG既接種者においても結核感染を正確かつ客観的に診断できる。

ツ反の基に成ったKochのツベルクリン

1890年にRobert Kochは結核の予防薬を発表した。その物質は翌年の1891年、Koch自身が結核菌培養ろ液である事を明らかにし、同時にツベルクリンと名付けた。しかし、患者におけるツベルクリン治療は成功には至らなかった。
このツベルクリンは、治療法としては日の目を見なかったが、獣医学の分野ではウシの結核感染を診断するためのツールとして注目され実用化された。やがてヒトの結核感染を診断する方法として幅広く活用されるに至った。

ツベルクリン(PPD)の製法

日本のツベルクリン製法は、ヒト型結核菌青山B株(毒力株)を小川培地で培養し、タンパクを含まない培地(ソートン培地もしくはリンドIIB培地)で2~3代継代培養する。培養終了後に100℃で3分間殺菌し、粗く濾過して結核菌体を除いた後に限外濾過を行い、濾液を30倍~50倍に濃縮する。更に飽和硫安で塩析を行い、ゲル濾過により硫酸アンモニウムを除去する。この濾液を凍結乾燥して原末(PPDs)とする。
原末の規定量を0.5%乳糖水溶液に溶解してバイアルに分注し、凍結乾燥して製品化している。

 

※ヒト型結核菌青山B株(毒力株)は国立感染症研究所(国立感染研)に保存されている種菌を用いる。
※完成品のバイアル中の空気圧は10分の1気圧以下となっている。
※バイアルに添付されている溶解液の組成はリン酸第一水素ナトリウム、リン酸第二水素ナトリウム、塩化ナトリウム、石炭酸で、pHは7.4に成るように調整されている。

ツ反の問題点

1. PPDは結核菌培養液成分を部分精製したもので、数百種類もの異なる蛋白質を含む。その多くのものがBCGや 環境中の抗酸菌と高い類似性を持つ。このため、BCG接種や非結核性抗酸菌感染でも陽性反応を起こすことが報告されている。
人型結核菌(M. tuberculosis)とウシ型結核菌(M. bovis )の遺伝子配列は99.95%相同であるため、高確率で交叉反応が起きる(PNAS, 100, p7877- 7882, 2003)。
2. PPD接種や反応の測定には技術的差がある。
3. 結果判定には被検者が再び医療機関に行き、PPD接種48時間後に接種部位の測定をしなくてはならない。
4. ブースター効果を有する。

QFT検査陰性者におけるツ反陽性者

下の図はIGRA検査(QFT-2G検査)陰性とツ反のサイズを比較した結果である(過剰な感染診断)。
QFT-2G検査陰性者1,666人中70%以上がツ反発赤30mm以上(陽性)を示した。この結果はツ反が結核感染以外のBCGワクチン接種や非結核性抗酸菌感染でも陽性になることを示したものである。

QFT検査陽性者におけるツ反陰性者

下図はQFT-2G検査陽性者279人におけるツ反発赤の分布であるが、発赤サイズ30mm以下(ツ反陰性)が16.5%も在った。
この事実は、ツ反が結核感染者を取りこぼしている可能性が極めて高いことを示唆している(ツ反検査に依る結核感染者の取りこぼし)。